-研究概要に戻る-

有機伝導体の赤外光学応答

物質の電子状態を調べる手法の一つに,光に対する応答を測定する方法があります.特に遠赤外から赤外,可視光の領域は物質中の電子,フォノン,バンド間遷移などによる光吸収,反射が現れる領域です.有機伝導体に対する光学応答測定も遠赤外−可視の領域で盛んに行われています.低エネルギーである遠赤外光の領域には伝導電子によるドルーデ応答や,格子フォノン振動が中赤外領域ではバンド間遷移による吸収が観測されます.ドルーデ応答やバンド間遷移の観測から相転移や電子の局在,遍歴の様子などを知ることができます.また,1000-1500 cm-1のエネルギー領域は,“指紋”領域と呼ばれ個々の分子の結合や構造に特徴的な分子内振動が多数観測されます.この分子内振動の様子からも電子の振る舞いを知ることができます.ある特徴的な分子振動はその分子の周りの電荷と強く結合し(EMV結合といいます),分子振動の周波数が電荷と分子振動の結合の度合いにより変わります.つまり電子が遍歴的(金属的)か局在的(絶縁体的)かにより分子振動周波数が変化します.光学測定では,吸収や反射の強度に比べて振動周波数の変化はずっと精度よく測定できます.これらの性質を巧みに利用して,有機物質の電子状態研究を赤外光学反射測定により行っています.有機物質では比較的小さな試料しか得られない場合もあるため,強度が強く,測定領域が絞れる放射光赤外光(BL43IR赤外ビームライン, SPring-8 兵庫県播磨)を利用した実験も行っています.放射光赤外光を利用すると測定可能な領域を数10マイクロメートルまで絞れます.この放射光と有機物質の分子振動を組み合わせたユニークな電子状態空間マッピングを行い,モット絶縁体−金属1次相転移近傍での電子相分離の可視化などを行っています.

最近の参考文献

Optical probe of carrier doping by x-ray irradiation in the organic dimer Mott insulator k-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl, T. Sasaki, N. Yoneyama, Y. Nakamura, N. Kobayashi, Y. Ikemoto, T. Moriwaki and H. Kimura, Phys. Rev. Lett. 101, 206403-1-4 (2008).

Spatial mapping of electronic states in k-(BEDT-TTF)2X using infrared reflectivity, T. Sasaki and N. Yoneyama, Sci. Technol. Adv. Mater. 19, 024306-1-14 (2009).

-研究概要に戻る-