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分子性有機導体

もともと絶縁性の高い有機物質に電気伝導性を与えるためには,シリコン半導体に少しだけ不純物を加えてキャリアを作るのと同じように,動ける電荷を試料中に作る必要があります(キャリアドーピング).このドーピングが外から人の手によって施されることなく結晶の中で自然に行われることがあります.電子を放出しやすい性質を持つ分子(ドナー)と電子を取り込みやすい性質を持つ分子(アクセプター)が組み合わさってできた結晶では,結晶の中でドナー分子とアクセプター分子の間で電子の移動が起こり,ドナーまたはアクセプター分子が作るバンドにキャリアが作られます.このような物質は電荷移動錯体と呼ばれ,多くの分子性導体は電荷移動錯体です.有機合成化学者の努力により,非常に多くの種類のドナー分子,アクセプター分子が合成され,これら2種類の分子の組み合わせにより結晶が作られています.数多くのドナー分子の中で,高い電気伝導性を与えてくれる分子の代表的なものにBEDT-TTF (bis(ethylenedithio)-tetrathiafulvalene)分子やTMTSF(tetramethyle-tetraselenafulvalene)分子があります.これらの分子は,数多くのアクセプター分子との組み合わせで良質の分子性伝導体結晶を生み出す優等生です. このような有機導体の単結晶は,多くの場合,電解酸化法という方法で作製します.結晶が大きく育つには比較的長時間(1週間−1ヶ月)かかりますが,出来上がった結晶は大変きれいな金属光沢表面を持つものです.

中,高校生,大学初年の方への解説はこちらも参照ください.ブルーバックス(B1643) 「金属材料の最前線」,“新しい電気伝導材料−有機物質” 佐々木孝彦 (株)講談社 (2009)

金属材料研究所が編著した物質材料の入門書  有機超伝導体k-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2単結晶

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