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モット転移とアンダーソン局在

強相関電子系の物性研究におけるもっとも重要な課題のひとつが金属−絶縁体転移とその臨界性に関する問題です.電子間クーロン相互作用が重要な役割を担う遷移金属酸化物,重い電子系,そして分子性有機物質などにおける異常金属相と超伝導発現の相関などは異なる物質群間における類似性が見られる一方で,物質固有の特徴を反映した多様な振る舞いが見られ多面的なかつ精力的な研究が行われています. モット絶縁体-金属転移は,このような強相関電子系研究の中でも最重要な中心的課題のひとつです.モット転移は,バンド幅とキャリア数の2つの変数に対して電子の遍歴-局在の臨界点を有する電子相転移です.実験的には,元素置換によるキャリア数制御(遷移金属酸化物など)や物理的な圧力印加,分子置換による化学的圧力印加によるバンド幅制御(有機系,Ni(S,Se)2など)を行うことでモット絶縁体の金属化相転移がおこります. 有機物質系は特徴的な柔らかい分子格子を有するために典型的なバンド幅制御型モット系強相関物質として精力的な研究が行われています. このような電子相関とは異なる物理的機構による興味ある金属の絶縁体化としてアンダーソン局在があります.系の乱れによる電子波の干渉により局在絶縁化するものです.これまで電子系のアンダーソン局在は,無機半導体や弱局在を示す金属などで精力的に研究が行われてきました.しかし,アンダーソン局在における電子間相互作用の役割は,残された大きな課題として現在でも良く分かっていないことが多いです.実験的には,乱れを他の物理パラメータを変えずに変化させる困難さがあります. 最近,私たちはエックス線照射による分子欠陥の系統的な導入手法を開発し,モット転移近傍においてはわずかな乱れが電子状態を大きく変化させることを見出しました.このような分子欠陥導入方法を用いることによって,これまでに無くシンプルに強相関電子によるモット転移と乱れによるアンダーソン転移の変遷,相関に関する実験研究を行っています.

最近の参考文献

Electron localization near the Mott transition in the organic superconductor k-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br, K. Sano, T. Sasaki, N. Yoneyama, N. Kobayashi, Phys. Rev. Lett. 104, 217003-1-4 (2010).

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